最終更新日 2024年11月1日
産業医は、労働者の健康を守るために常時50人以上が働いている事業場には設置が義務付けられています。
ただ、ここで間違えやすいのが、労働者が病気や怪我をしたときの診断・治療をやってくれるわけではありません。
もちろん、専任されるためには医師免許を持っていなければいけないのですが、病院やクリニックで働くのとは違って「個人」を相手にするのではなく、「契約している企業に勤めている労働者すべて」を相手にしているので個々の診断・治療はしません。
産業医の仕事
それならば産業医として何をするのかというと、労働衛生の3管理と呼ばれる「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」の3つに基づく仕事です。
これらの労働衛生の3管理において、何をするのかをもう少し具体的に見てみましょう。
(1)作業環境管理
「作業環境管理」ですが、労働者が仕事をする環境を守るための仕事です。
騒音や粉塵など労働者の健康を損ねるような有害因子を見つけて、それらを排除できるように指導をしていきます。
たとえば建設現場でアスベストを吸うと健康被害がでることは一般の人でも知っていますが海外では危険性が指摘されていたのにも関わらず、日本では1970年代後半から80年代にかけて大量に使われていました。
その結果として、数十年が経過してその時代に働いていた人たちは次々と中皮腫や肺がんなどになっています。
これも「作業環境管理」が適切に行われなかったためといえます。
健康被害は今すぐにではなく何十年も経ってからでてくることもありますから、これをいい加減に行ってしまうと労働者の人生に深刻な影響がでてしまいます。
(2)作業管理
「作業管理」は、労働者の健康を守りつつ作業ができるようにすることです。
「作業環境管理」と似ていますが、こちらは環境ではなく作業の内容に関して管理をしていきます。
作業をする時間や姿勢などを確認していき、適切に働けるようにマニュアルをつくって実践させることで病気や事故が起きるのを防ぎます。
法律で休憩時間をとる基準などが決められていますが、それをどのようなタイミングで取らせるべきかといったことも考えていきます。
デスクにてパソコンやタブレットなどを設置して作業をするVDT作業であれば、1連続作業を1時間以内にしてこまめに休憩を入れる、ディスプレイと目を50センチは離すなどが健康のために求められます。
産業医はそういった知識を提供して、安全に労働者が働けるようにしていきます。
年齢や性別など労働者によって、健康的に働くために必要なことが異なりますから、そういったことにも企業が対応できるようにアドバイスをします。
(3)健康管理
そして「健康管理」ですが、労働者の健康状態を確認するために定期的な健康診断やその結果を受けて食生活や運動などの健康指導を行います。
前述のように治療を行うわけではないので、病気であるならば労働者は病院やクリニックに行かなければいけません。
普通とは違って健康に害が及ぶかもしれない状況で作業(有機溶剤などを扱う仕事)をしなければいけないときには、特殊健康診断を実施します。
他にも長時間労働者やメンタルヘルスに問題が起きそうな労働者に対して面談を実施します。
定期検診と面談で労働者の健康状態を把握して、このまま仕事を続けさせていいのか、休職させるべきか、休職者は復職が可能なのかということを意見書にまとめます。
労働衛生の3管理が徹底していれば、労働者が安心して働ける事業場といえます。
職場巡視
そこで重要な意味を持つのが月に1回以上(条件を満たせば2ヶ月に1回でも可)は行わなければいけない職場巡視です。
労働者が働いている事業場を見て回ることで、3管理に必要な情報を収集していきます。
上辺だけ見るのではなく、作業の内容を深く理解できれば、そこに危険な因子がないのかを正確に判断できます。
ここでわかったことから、安全衛生委員会に提出する報告書が作成され、改善策が検討されます。
以前は、産業医と言っても名義だけで、職場巡視や面談をろくに行わないケースがよくありました。
それは、いわゆるブラック企業が劣悪な労働環境で労働者が働いていることを表に出したくないという思惑があったからです。
当然ながら、名義貸しは違法で、そんなことが発覚すれば企業は罰則を受けますし、公にも発表されます。
ストレスチェックの義務化など、やらなければいけないことが多くなってきましたから、今は名義貸しを内密に行うことは難しくなっています。
ただ、名義貸しをしていなくても、労働者のことを考えない仕事をしている産業医は少なくありません。
客観的に労働環境を評価せず、うつ病で休職中の労働者の服飾を認めずに追い出すなど企業側の利益を守るために行動します。
そうやって企業に都合の良い仕事ばかりをしていくと、防げるはずだった労働事故を防げない危険性も出てきます。
最終的には企業にとっても損なのに、目先のことだけを考えていると、最悪な結果を招きます。
なので企業としても、中立の立場で仕事をしてくれる産業医を雇うことが成長をするためには必要です。